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絆 ~ママへのラブソング~


絆 ~ママへのラブソング~ 活動 


この楽曲は幼い子供からママに向けたメッセージソングです。
連日のように新聞・TVでは子育てや親子間に起こる様々な問題を目にすることが非常に多くなりました。そのようなニュースを聞くことは本当に胸が痛みます。
シンガーソングライターの僕に何かできることはないだろうか・・・と考えてみました。
ケアストレスカウンセラー」として教材作成・講演会を通じて、親子&青少年のメンタルヘルスの向上に努める渡辺照子さんと相談し、歌詞を書いて頂いたのがこの「絆~ママへのラブソング~」です。


僕が子供だった頃、本当にやんちゃなイタズラ坊主だったそうで、両親はよく「大変だった」と話をします。そんな親の言うことをきかない僕が5歳の時に髄膜炎になりかけて入院した時、毎日見舞いに来てくれる両親を僕はどれほど楽しみに待っていたことか...。僕にとって両親は唯一の存在だったんですよね。 それは僕だけに限らず、世界中の子供にとって親というのは、かけがえのない存在であり、親が子供を愛する以上に親のことを愛しているのだと思います。


それを裏付けるデータとして、虐待を受けている子供の90%は親のもとに帰ることを望むという事実もあります。こんな子供の切ない想いも歌詞に盛り込んであります。虐待というと話が大きくなってしまうのですが、毎日の子育ての中で余裕がなくなってくると、子供の泣き声をうるさく感じてしまったり、イライラしてしまったり・・・

子育てをしていたらそんな瞬間は誰にでもあることだと思います。そんな時、この歌を聴いて、泣いている子供のことを「仕方ないな~」と思えたり、イライラする気持ちをすこしでも癒せることができたら、この歌の使命を果たせたものだと思います。そんなきっかけになれることを僕は望んでいます。


現在、ライブの他にも親子が集う場所や保育園等でこの楽曲をボランティアでお届けに行く活動をしていますが、その度に多くの方が涙を流して下さります。お子様連れのお母様は、お子様を抱きしめて聴いて下さいます。それを拝見するだけでやはり親と子は愛と絆で結ばれているのだと感じます。 

光栄なことに児童健全育成推進財団から児童の育成に非常に良いということで厚生労働省の児童福祉文化財への推薦をも頂き、現在申請中でございます。
またこのCDの売り上げの一部を母子の健康に関する団体や組織などの福祉基金に寄付する準備も行っております。

CDのお取り扱いは5月14日より山野楽器(本店B1F、そごう横浜店、そごう千葉店、そうごう大宮店、調布パルコ店)、アマゾン、オフィシャルHPでお取り扱いされます。この楽曲をたくさんの保護者の方に伝えていきたいと思っておりますので、是非とも皆さまの応援、御協力を宜しくお願致します。

                                                      橋本昌彦

2010.05.14 金曜日更新

TAFFY結成 〜feat.Love Song〜

ルリが白い喉を鳴らして生ビールを飲むのを見ながら、僕はまた彩花のことを考えていた。

 陸上部の放課後練習が終わって、1,5リットルのペットボトルを豪快に逆さまにして水を飲む姿。夕暮れが一気に気温を落として夜へ駆け込んで行くのと、まるで競うようにゴクゴクと音を立てて乾きを潤すシルエットは、僕が彩花に惚れた瞬間のシーンだ。

「次、なに飲む?」
「なにしよっかな、タカヒロなに頼んだんだっけ?」
「焼酎のゆず茶割り。おいしいよ」
「わたしも同じのにする」
 そう言うと僕より先に、手があいてる店員に声をかけた。
「ルリが酒飲めて良かったよ」
「あはは、でも毎日誰かと飲んでるんでしょう? タカヒロの会社の人って、飲めない人いるの?」
「そりゃぁいるよ。それにうちだってビールだけ作ってるわけじゃないじゃん。お茶の売り上げのほうがいいくらいなんだから」
「え、そうなの?」
「そうなの?って。そんな感じですか?」
「そんな感じですよ、会社名聞いたら、ビールって思いますよ」
 ルリは明るく笑いながら、大根サラダに箸をつけた。テンポのいい会話ができるのは、天性のものなんだろうか。酒を運んで来たウエイターと彼女 が、軽口を交わしているのを見ながら、ルリの人目を引く明るさを可愛いと思った。そばにいたら、いつでも日溜まりのような笑いに包まれて過ごせるだろう。
 その夜、僕は酔っぱらったのを口実に彼女の部屋に帰りながら、大人になると、つきあうってこうやって始まるものなんだなぁと考えていた。彩花 と出会った高校生の頃は、「好きです、つきあってください」みたいなことを宣言をするのがスタートだったのに。いったい僕はいつの間に大人になっていたの だろう。
 
                                                                    営業職の朝は早い。だから、午後は必ず眠いのだが、今日は昼休みを狙ってアツシがかけてきた電話の内容が気になって、頭はずっと冴えていた。「バンド 作ったんだ。タカヒロが紹介してくれたメンバーで、曲作ったんだよ。結構いい感じでやれてさぁ。それで、腹くくってやることにした。俺たち、もう一度好き なことやるんだ」
 アツシに「好きなこと」なんて子供っぽい言葉を堂々と使われて、僕はちょっと照れた。今夜フジの部屋にみんなが集まるから、来てくれよな、そ う言って電話はすぐに切られた。こっちの仕事を気遣ってのことだろう。アツシも一度就職したことがあるから、長い会話はサラリーマンの迷惑になることを 知っている。それでもメールではなく電話をしてきたのは、必ず来い、という意味なのだろう。
 僕の営業担当に、ライブハウスのバーというのがある。新商品が出るときはデモンストレーションイベントをすることもあったし、店内だけでな く、店舗の入り口に設置する自動販売機は、ライブが終わってから思いのほか回転率が高い。つまり僕にとって重要なお得意様で、なおかつ音楽好きという趣味 もかねて、現地調査といっては都内各所のライブハウスには頻繁に出入りするようにしていた。入社して4年、やっと手に入れた所謂おいしい仕事、というやつ だ。
 そうやってつきあいがあるうちに知り合ったミュージシャンと友達になったり、こいつとあいつは気が合うだろうなと思うと紹介したり、そんなことをしながら同世代の人間と交流するのは、仕事を忘れられる貴重な時間だった。
 アツシが作ったバンドも、そんな流れのなかで僕が紹介したメンバーで結成したという。
 たしかドラムのフカオとギターのユイタは、それぞれプロのミュージシャンとしてメジャーなシンガーのバックで活躍していて、プロといっても自分 のやりたい音楽をやるわけじゃないしさと、ひねた口調で愚痴をこぼしあって意気投合したはずだ。ベースのフジは3年続けたインディーズのパンクバンドが解 散してやることがないとぷらぷらしていた。アツシは就職した会社をやめて、バイトでプロモーションビデオのADをしているのに、忙しいときは完徹してでも カラオケだけは毎日行かないと気が済まないという壊れた生活をしていた。
 時間は重たい鉄のかたまりのようなものだ。動いているものを素手で止めるのは簡単なことではない。毎日ずるずると過ぎて行く暮らしぶりを、彼 らはどうやって止めたというのだろう。昼間の電話は充分本気に聞こえた。それともそれは思い過ごしで、なんとなくノリで話が進んでいるだけだろうか。で も、とりあえず始めたのでもいいのだ。何かが始まるのは、それだけでうまい酒が飲める。
 僕は未来という大海原のある彼らを誇らしく思いながら、ビールを一箱小脇に抱えて、三軒茶屋にあるフカオのマンションに向かった。

 部屋のドアを開けると廊下の半分はドラム機材が置かれ、その向こうで4人がパソコンの画面を見ながら口々に意見を言っているのが聞こえた。
「おータカヒロ、ちょっと見てくれよ。プロモーションビデオ作ってんだ」
「やること早いなぁ」
「おぅまかせろ」
「アツシは行動派だもんな、こないだの合コンも早かったんだよな〜」
「早いって言うな、セッティングが、だろ?」
「なんだよそれ、俺呼ばれてないけど」
「ちょっと、ちゃんと聴いてもらおうぜ」
 ユイタが座っていた場所を譲ってくれようと立ち上がった拍子に、積まれていたCDRが派手な音を立てて崩れ散った。
「ビール冷やしとくよ」
 CDRを拾い集める騒ぎをよそに、玄関に置いたビールの箱を長身を揺らしてフジがビリビリと破ると、冷蔵庫の中に入っていた冷えたビールと入れ替えはじめた。冷えたほうのビールはもちろん、その場でみんなの手に渡った。
「お前らやることバラッバラなんだけど、バンドとか大丈夫なのかよ」
 僕は男子校の部室みたいな居心地よさを感じながら部屋の中央まで進んだ。
「バンドは大丈夫。でも、金は大丈夫じゃないから、タカヒロこれからも酒の面倒はよろしく頼むよ」
「アツシ今日俺を呼んだのは、それでか?」
「そういうことだ」
 がははっと調子よく僕の背中をばしばしと叩く彼の目が笑っていなかったから、立ちすくんだ僕の内心は一瞬にして鳥肌を立てた。
 やっぱり本気なんだ。改めてそう思った途端、細かく整列していた鳥肌は全身を津波のように広がって行くのだった。

                                                              

 バンドは「TAFFY」と名付けられていた。全員の頭文字を合わせたんだ、KAT-TUNみたいだろ、とみんなはアイドルの振りマネや顔マネをし て騒いでいたけれど、そのうち僕はTというのが自分のことだと気がついて、心底ものすごく感動した。そしてその夜は忘れられないものになるはずだったの に、酒の力が記憶をすっかり消してしまった。
 週末をルリの部屋で過ごしながら、そんな話をしていた。ルリも「記憶より記録に残る二日酔い」とかくだらないことを言って笑っていた。だか ら、喋りすぎたんだ。彼女の作る心地良さのせいで。それとも僕が、彼らの夢にすっかり浮かれて、順調な人生の舵取りを誤ってしまったのだろうか。

「もう叶わないかもって思ってた夢があってさ。高校のときの同級生にしか喋ったことないんだけど、彩花っていうんだけどそいつ。みんなが着メロにし たくなるバンドを作って世の中に出していく、そういう仕事に憧れてたんだよね。でさ、TAFFYがそうなったら、なんかいきなり夢叶っちゃうんだよなぁ。 仕事全然音楽業界とは違うのに逆転サヨナラしちゃったりしてさ」
 僕は普段、彩花の名前を口に出すことは絶対になかったのだけど、そのときは、恋人に隠し事はしないという理想が脳みその表側に現れていた。僕 の隠し事のなかで彩花の名前は相当ランクが高かったから、ルリにそれを教える自分をいい男だとさえ感じていた気がする。彼女は、遊びじゃなくて将来も考え ながらつきあっていこうと思えた初めての人だったし、僕はTAFFYの件以降、相当な純粋モードに入っていたのだ。
「その彩花って女の人には、もう言ったの?」
「言ったよ、ずっと気にしてくれてたからさ。夢って向こうから近づいてくることもあるんだねって、喜んでた」
「いつからの夢だったの?」
「だから高校んとき。3年かな」
「そのとき、その人に喋ったの?」
「そう。喋れる人って他に誰もいなかったんだ。それ以来、話したのはルリだけだ」
 ルリはもう笑っていなかったのに、僕はまだ気がついていなかった。
「あいつはこつこつ努力するタイプでさ、言っちゃなんだけどルリみたいに綺麗な顔してないんだけど、モデルを目指したんだよ。アジアンビューティってブスでもいけるとか言って。超前向きなんだよなぁ。そんで本当にパリに行ってオーディション受けまくって」
「タカヒロはその人が、好き?」
 僕にはその真っ直ぐとした声が放った「好き」という言葉が、一瞬「した」に聞こえた。タカヒロはその人と、した? 
 そして、心臓が、熱く炸裂して頭の後ろを打ち抜いた。
「友達だよ、普通に」
 汗がこめかみを流れているかもしれないと思った。思いながらルリへの気持ちが、もの凄いスピードで醒めていくのを感じていた。
 放課後の彩花の、汗ばんだ胸元がよみがえる。急いで水を飲まないと。夜がくる前に。ペットボトルはどこだろう。彩花の汗ばんだ胸が上下に呼吸している。焦りながら醒めながら、普通に会話をすることだけ考えていた。
「このあいだなんか酔っぱらいたいからって呼び出すんだぜ、男みたいだろ」
「そうね」
「モテるらしくてさ、信じられないけど。いろいろあるんだろうな。彼氏もちゃんといるんだけどね」
 そう、彼氏がちゃんといるとルリに伝えることがこの場では大事だと思った。
「だったらどうして彼氏に相談しないの?」
「彼氏に自分がモテる話はできないだろ?」
「うん。そうかな」
 意外だったのだけど、ルリはすでに半分泣きそうになっていて、それに気づいた僕はこういうもんかなぁと、やっぱりどこか冷静になってしまったままだった。泣き顔は可愛かった。
「大事な友達だしさ、なんかあったら話聞いたりするよ。嫉妬するようなこと何もないし、っていうかさ、信用されてないんだな」
 信用なんてよく思いついたものだと、頭のなかでもうひとりの僕が囁いた。もうルリを傷つけただろうし、あとは、この場から早く去りたかった。
「わたし嫉妬してるよね?」
「そうだね」
「ダメだよね」
 駄目だよ、と頭のなかで文字にした。彩花もやっぱり嫉妬するんだろうか? 彼氏がちゃんといるんだ。もう何度も繰り返しているのに、自分が言った言葉に、僕はそっと傷ついていた。

                                                             

 社内の引き継ぎは、あっけなかった。人事に呼び出されて、保険を一般扱いにはなるが継続しないかと言われて、そういえば保険会社もグループ会社だったことを思い出し、改めて自分が大きな組織にいたことを知って、なんだか笑いたくなった。
 会社を最後にすると、その足で三軒茶屋に向かう。フジの部屋は最近もっぱらカフェ状態で、行けば必ず誰かが作業をしているかミーティングをしているかになっていたが、自分がいま一番行きたい唯一の場所だった。
 彼らのバンドTAFFYの活動は順調で、細かくライブを重ねては対バンのファンを自分たちのファンにして帰ってきているようだった。来月は、 ホームグランドである渋谷のライブハウス、SoLidでワンマンが決まっていた。動員が200人の大台に乗るかどうか、の勝負所らしい。
 僕は、人と人を引き合わせるのが向いているんだと思う。彼らが僕を常に感謝のまなざしで見るから、そんなふうに自信を持って言えるようになったのだ。
 それならば、それで生きていきたかった。会社にいればそれはグローバルな規模でできたかもしれない。けれどもう少し、もう少し欲しいものがあることに気がついてしまって、僕は会社を辞めることにした。
「おータカヒロ、サラリーマン辞めて来たか?」
 アツシが破顔してドアを開けてくれた。
「え? うっそータカヒロさん会社辞めたの? 今日ってそういう飲み会?」
 アツシの妹のユカが奥からばたばたと出て来た。香辛料の匂いが広がる。
「麻婆豆腐?」
「はずれー、薬膳火鍋だよ〜」
 玄関に溢れてる靴を並べ直しながら、僕はアツシの顔を見た。
「なにそれ?」
「鍋だよ、体にいい鍋。あいつの店で最近評判いいらしいんだ。早く上がれよ、もうみんな来てっから」
 部屋には、TAFFYのメンバーが揃っていた。SoLidのオーナーの兼田さんもいた。
「ビールまわせ、ビール、仲間の門出に乾杯するぞ! 人生の門出に福来るカンパーイ!」

 そう、これは門出だ。人生の門出であるこの部屋で福の神がいっしょに乾杯しているはずだ。
 僕は来週から、SoLidのバーを手伝いながら新人発掘をメインの仕事にすることにしていた。どんなことも人と人の出会いから始まる。そこに僕はずっといることに決めたのだ。
 ルリとは、あの後一度だけ会った。別れる前に言いたいことがあると呼び出されて、もしかしたら平手打ちの一発でも食わされるかもしれないと覚悟をして行ったのに、彼女はとても聡明だった。
 タカヒロと彩花のことは応援しないけど恋は大事にしなよ、と言った。それを伝えたかったと笑顔を見せたけれど、その言葉にたどりつくまでどれだけ苦しんだのかを想像して、僕は今更ながら、人を傷つけてしまうほどの情熱を彩花に抱いているのを感じていた。
「嫉妬する自分が、もう嫌だったよ、ごめんね」
 最後にそう言って颯爽と歩いていったルリは、昼下がりが似合うお嬢様だった。彼女といたときはしあわせだったなと思いながら、哀しくはなかった。
 そしてその足で、成田まで彩花を迎えに行った。昨日オーディションに行っているイタリアから電話があって、帰るから車で迎えに来てと言われたの だ。利用されているだけだと思いながら、それでも構わなかった。高校を卒業して彩花に想いを打ち明けなかったときから、僕の心の底には大きな穴があいてし まって、傷つく場所をなくしているのだ。

「女にはふられたけど、仕事はイケイケのタカヒロにカンパーイ!」
「ルリさんは俺が口説くぞ! カンパーイ」
 彩花のことは誰も知らない。
「失恋の痛手を振り切るために、がむしゃらに働くでしょうカンパイ!」
「ルリにふられて、仕事もまったく見えてない俺にカンパーイ!」
「たしかにTAFFYみたいな新人バンド、また見つかるかわかんないぜカンパーイ!」
「俺たちのワンマン成功にカンパアイ!」
 夜中になっても何度も乾杯をしてくるTAFFYのメンバーは、自分たちもなにも見えない明日に舟を漕ぎだしている。彼らのような人間は他にもた くさんいるのだ。自分で切り開くことでしかやって来ない明日にオールを突き立てる。僕はそんな人間に生涯ずっと出会い続けていくだろう。
 兼田さんのiPodから、SoLidで最近人気が出てきているアーティストの曲が流れていた。僕の好きな『Love Story』だった。

"こんなに誰かを愛せたこと そんな僕自身に出会えたから"

 恋をすると人は熱を生む。叶うタイミングを失った恋でさえ、消えずに全身をうつろい巡るのを、僕はもう何年も味わっている。ゆうらゆうらと体を蝕 みながら、ときどき突き動かすような衝動に姿を変えて僕を生きる明日へ導いていた。そうやってここまでの時間を歩いてきたのだと思う。我に返って告白しな かったことを後悔したり、彩花とのつながりを切ったりしたら、歩き方がわからなくなってしまう不安さえ抱えているのを知っている。だからもし彼女からのわ がままな頼み事が途絶えたら、僕はいつでも、見守るために彼女の家の前に立ち尽くすだろう。
 もしかしたらいつからか、彩花自身にというよりも彩花がくれる衝動という目には見えない強いちからに恋をしているのかもしれない。アツシたち がくれたものも僕を突き動かすちからだった。少なくとも会社にいる先輩や同僚たちにとって、それは仕事をするうえで余計なものとして切り捨てられている感 情だ。
 いま僕には根拠のない自信がある。なにをするかはあまり重要なことじゃない。自分が感じているままを行動に移すことで、生きている手応えがあ るに違いないのだ。人の熱に触れている自分でありたい。そう思うのはきっと、僕がぽっかりと穴の空いた心を抱えているから、誰かの確かな感情の有様に飢え ているからかもしれない。たとえ自分の心が生み出さなくても、誰かのなかから沸き上がるものを、僕は信じていこうと思っていた。
 換気のために窓を開けると、月も星も出ていない漆黒の無限大が、ぽっかりと親しげに広がっていた。
 

                    text by Seriko Natsuno

2007.02.19 月曜日更新